会報

2021.06.08

会報

No.488 2021年 5・6月号

勤勉について、あるいは、コロナ禍をどう過ごすのか?

スタジオジブリ
鈴木敏夫
鈴木敏夫

撮影:荒木経惟

人間、誰だって、ひとつくらいは勤勉なところがある。そして、この勤勉さが、その人の人生を決定づけることがある。
宮崎駿の場合、それはある時期から児童書をずっと読み続けたことだ。そのある時期とは、宮さんが大学生だったとぼくは想像している。
30年くらい前のことか、徳間書店が児童書の刊行を始めた。毎月3冊。それを宮崎駿とぼくに欠かさず送って来た。
毎月3冊という事は、年間で36冊、それが30年になれば、1000冊を超える。その全てに毎月、目を通して来たのが宮崎駿だ。送る方も凄いが、そのすべてに目を通す宮さんという人は常人じゃない。ぼくなどは、気に入ったものしか読まなかった。
そして、その中から生まれた企画が、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ハウルの動く城」だ。1000冊にたった一冊かと言うなかれ。映画に相応しい企画を考えるというのは、そのくらいの確率だ。
自分の好きな作品と映画化に向いている原作。宮さんはそれを分けて考える。ロバート・ウェストールなど彼の大好きな作家だが、この人の作品を映画にしようとは言わない。
ぼくにしても宮さんの影響で「かかし」をはじめ何冊か読んだ。本当に面白い。そして、宮さんに映画にしようと持ち掛けたが、宮さんは首を縦に振らない。
「これを映画にしようと簡単に言わないで欲しい」
こういう時、宮さんは、いつだって目でそう語る。

ぼくの古い友人に奥田誠治という映画のプロデューサーがいる。その付き合いは30年以上に及ぶが、ふと奥田さんの勤勉さは何だろうと考えた。考えているうちに、「あのころ」を思い出した。
奥田さんは、日本テレビの映画プロデューサーとして手がけた映画が数百本。業界で彼の名前を知らない人はいない。むろん、ジブリの作品にも深く関わってくれた。
振り返ると、ジブリのスタッフを除いて、宮崎駿と昵懇になった人は、この奥田さんをおいて他にいない。なにしろ、あの「千と千尋の神隠し」の家族は奧田家の面々がモデルになった。
どうしてそんなことが起きたのか?
あのころ、奥田さんは、日本テレビの仕事が終わると、毎晩、中央線に乗ってジブリに駆けつけた。時刻は、午前零時を回りかけたころだ。特段、用事があったわけじゃない。それどころか、仕事の話は皆無だった。と、そこへ自分の仕事を終えた宮崎駿が顔を出す。奥田さんが、駅の近くで買ってきたみかんや駄菓子に手が伸びる。そして、くだらない話をひとしきりすると、「そろそろ帰ろうか」となって、それぞれが家路につくという毎日だった。
この繰り返しが、どのくらいの期間、続いたのだろうか?
少なくとも、10年は続いた。いまだから、分かることがある。
あの時間は、奥田さんにとっても、宮さんにとっても、そして、ぼくにとっても大切な時間だったのに違いない。たぶん。
青春と言うには遅すぎるが、とてつもなく楽しい時間だった。
ちなみに、このくだらない話の内容は、そのほとんどが、奥田さんが近い未来に建てるであろう新居の設計の話に費やされた。その話の中心は宮崎駿だった。宮崎駿は、ホワイトボードを前に、様々な家の設計図を描いた。
その話が、どのくらい生かされたかは怪しいが、後に、奥田さんは、早稲田に念願の新居を建てる。
そういえば、奥田さんは、ジブリに毎晩、駆けつけるだけの人ではなかった。業界のあらゆる集まり、パーティ、冠婚葬祭などなど、時間の許す限り、顔を出した。奥田さんは、ひとなつっこい人だ。人が好きな人だった。
奥田さんは現在、日本映画テレビプロデューサー協会の会長を務めている。今日、その要職にあるのも、その勤勉の賜物とも言える。

さて、最後はぼくの話である。
ぼくの勤勉さは何か? 簡単だ。
宮崎駿と出会って43年、奥田さんとの付き合いも38年くらいになる。思えば、遠くまで来たものだ。これを勤勉と言わずして、何と呼ぶのか。こうなると、誰が先にくたばるのか? 競争だ!
コロナ? コロナは怖いけど、いつもやって来たことをやり続けるしかない。目の前のことをコツコツとやりながら。


只今撮影中

シンドラ「探偵☆星鴨」

日本テレビ
能勢 荘志

「シンドラ」は月曜深夜に放送中の、日本テレビとジェイ・ストームの共同出資によるドラマ枠で本作が第十五弾となる。企画の自由度が高く、毎回様々なクリエーターとコラボしています。
Hey! Say! JUMPの有岡大貴さんの単独初主演作となった4月期「探偵☆星鴨」は、人気劇団ヨーロッパ企画とコラボした、探偵ドラマ史上最も頭を「ユルめる」コメディ・ミステリー。
なかなか頭をユルめられる機会がない時勢でもあり、当初から気を張らずに楽しめるコメディにしたいと話していて、京都を拠点に独自の世界観のコメディ作品を演劇・映像問わず発信し続けるヨーロッパ企画に、企画の立ち上げから相談し、脚本を諏訪雅さん、脚本監修を上田誠さんにお願いしました。上田さんとは同世代で、二十代の頃仕事ではないところで知り合って以来、公演も拝見していて、私自身一ファンであり、念願叶ってのお仕事となりました。その後、主演を有岡さんにお願いすることになり、そのイメージも加味しつつ探偵・星鴨像を作り上げていきました。
有岡さんが四月に三十歳という節目を迎えるタイミングでの単独初主演、なおかつ彼もヨーロッパ企画のファンだったご縁もあってか、非常にモチベーション高く取り組んでくださり、そんな有岡座長と、宝来忠昭監督はじめスタッフキャスト一丸となって、コロナ禍の感染対策に配慮しつつも、楽しくドラマを制作できました。映画を中心に活躍するスタッフとのコラボによる映像と美術のクオリティの高さにも注目です。
主人公の星鴨は、ホームズや金田一耕助といった名探偵のように難事件を解決することに憧れて探偵になったが、その理想と、浮気調査やストーカー調査など地味で生々しい探偵業の現実とのギャップを感じながらも、なんとか探偵を続けてきた。二十九歳で独立し、祖母から引き継いだリサイクルショップの一角に探偵事務所を構えている。異性と三秒以上目を合わせられないというシャイで不器用なキャラクターで、毎回登場する様々な依頼人や、片山友希さん演じる星に冷静にツッコむ探偵助手・唐戸つぐみ、岡田義徳さん演じる星を殺人事件の犯人と疑う刑事・捜田一、堀部圭亮さん演じる星の憧れの師匠ジョーといった個性的な面々に翻弄されつつ、依頼人の笑顔のために一生懸命奮闘します。 数々の名作を生み出してきた探偵物という型を借り、週の始まり月曜深夜に、ふと頭と心をユルめる全く新しい探偵コメディの誕生です。


私の新人時代

NHK制作局 第4制作ユニット チーフ・プロデューサー
藤並 英樹

いまの私があるのは20代の頃に濃密な時を過ごした、京都の町と京都の撮影所の人々の影響が強くあると思います。初めてのドラマ制作の現場は、2007年の冬の京都・松竹撮影所。当時、NHK大阪放送局が「映像京都」といった「映画の職人」のみなさんとともに木曜時代劇「鞍馬天狗」を作っていました。 右も左も時代劇の作法も常識もわからない私は、ただただ現場を走り回り、結髪さんや衣装さん、殺陣師の上野先生に叱咤激励される毎日でした。「鞍馬天狗」は「夜」に現れるので、ほとんどの撮影がナイトシーン。京都の冬の夜は底冷えするため、ガンガン(一斗缶に薪をくべた暖房器具)を手に持つて俳優さんを温めて回ったり、兵の数が足りなくて自ら扮装して死体役になってみたりと、視聴者だったらわからない役者の苦労も目の当たりにしました。早朝から深夜まで、そして気が付いたら朝方まで(!)という収録もあり、ときには立ったまま寝るような日々を過ごしながらも、初めての時代劇、初めてのドラマの収録に楽しくもあり「なんて大変なとこに来てしまったんだ」という後悔もありの毎日でした。
その後、京都とのご縁が続き、連続テレビ小説「だんだん」では花街・祇園の担当となります。毎日歌舞練場に通う日々。お茶屋の女将さんや芸妓のお姉さん方に顔を覚えてもらい(雨の中、花見小路を歩いていたら二階から芸妓のお姉さんに呼び止められて、傘を貸していただいたことも!)男衆の方々と共に舞妓の着付けに立ち会うなど貴重な経験をさせていただきました。
つらくもあり楽しくもあった新人時代でしたが、この京都の人々から時代劇のイロハや歌舞音曲の奥深さを教わったことは、後に大河ドラマや単発ドラマを作るときの多くの財産になったと今では思えます。
10年以上たったいまでも、祇園の町の人々からは時折ご連絡をいただき、大河ドラマ「麒麟がくる」の制作統括をした際には、番組の感想とともに私の成長を大変喜んでくださりました。
これからドラマ作りに憧れや夢を抱いてくる若い人たちも、そんな「出会い」の機会をもてるといいですし、その機会を作ることが、「恩返し」なのかもしれないと思う毎日です。


事務局だより

◎入会

武藤  淳(TBSテレビ)
中島 啓介(TBSテレビ)
黎  景怡(TBSテレビ)
福家 康孝(日活)
遠藤  学(東宝)
田中 智子(テレビ東京)
木下真梨子(テレビ東京)
松崎  薫(フジテレビジョン)

◎退会

高井 一郎(フジテレビジョン)
加藤 正人(個人)
角田  豊(日活)
瀬戸口克陽(TBSテレビ)
高成麻畝子(TBSテレビ)
貴島誠一郎(TBSテレビ)
山崎 恆成(TBSテレビ)
津留 正明(TBSテレビ)

◎訃報

脇田 時三(特別功労会員 元テレパック)
2021年4月27日逝去

総会のご案内

第45回通常会員総会を左記により開催予定です。
日時/2021年6月25日(金)
   17時30分開会予定
会場/東映本社8階会議室
(総会は、本来会員の皆さまにご出席をお願いする重要な機会ですが、昨年来のコロナ禍が収束せず、昨年に引き続き会員の皆さまには、委任状によるご参加をお願い申し上げます)


インフォメーション

◎会議の記録

5月21日(金) 16時~   監事会(事務局会議室)
5月24日(月) 17時~   会報委員会(リモート)
5月28日(金) 18時30分~ 第8回定例理事会

◎会議の予定

6月25日(金) 17時~   第9回定例理事会
終了後、総会開催予定(東映本社8階会議室)

◎その他

「エランドール賞贈呈式」の模様を当協会及び日本映画放送のホームページ上、YouTube公開中(6月末日まで)

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