会報

2023.06.19

会報

No.506 2023年 5・6月号

映像コンテンツの激変期に
贅沢な時間の使い方

作家・評論家
中森 明夫

映画やテレビドラマをめぐる状況が激変している。もちろんインターネットの普及によってだ。映画もドラマもネット配信で視聴している層が大幅に増えている。NetflixやAmazonプライムはエンタメ界の黒船とも呼ばれ、世界マーケットへの開国を迫られた。製作費もスケールも破格である。
 そもそも「テレビを持たない」という若い世代が珍しくない。スマホ一つですべてが事足りる。本を読むのは電子書籍で、音楽を聴くのはサブスクだ。『映画を早送りで観る人たち』という本が話題を呼んだ。映画を無断で10分程に編集して、ナレーションや字幕をつけて紹介する、いわゆる“ファスト映画”が横行し、処罰の対象となった。どうして、こんなことが?と思えば「映画はタイパが悪い」と言うのである。タイパとはタイムパフォーマンスの略。コストパフォーマンスを略したコスパと並ぶ。若い世代はタイパ、コスパに異様に敏感なのだそうだ。
 YouTubeの出現も大きい。子供たちのヒーローはアイドルでもなければ、映画俳優でもない。ヒカキンや、はじめしゃちょーだ。もっともなりたい憧れの職業は、YouTuberなのである。映画やドラマがネット配信され、映像コンテンツの一端となった。YouTubeと同格なのだ。いや、そのYouTubeさえ「タイパが悪い」と短縮編集された、いわゆる“切り抜き動画”が氾濫している。さらにはTikTokの大流行だ。なんと15秒間の映像でメッセージを伝え合う。速く、短く、時代はどんどん加速していく。
 チャットGPTの出現が、世を驚かせた。質問を打ち込むと、即座にAI(人工知能)が文章を生成して人間のように応答する。私のような文筆業者は、もはや廃業だな。チャットGPTに仕事を奪われそう……なあんて自嘲気味に思う。いやいや、文筆業だけじゃないだろう。AIが自動生成して映画やドラマを創るようになるのは、もはや時間の問題のはずだ。無数の映像アーカイブにアクセスして、マリリン・モンローと石原裕次郎のラブシーンや、勝新太郎とブルース・リーの対決アクション等が見られることになるだろう。巨大オーケストラの音響がパソコン一つで演奏可能なように、スタジオもスタッフも俳優も不要で、AIによって瞬時にスペクタクル映画が無数に創造される時代がまもなく到来するのだ。
 ……と、やや脅迫気味に時代の変化をたたみかけてみた。実は、私は楽観している。新しいメディアが登場して、既存のメディアが駆逐される――という物言い自体が、昔からまったく変わらない(……)。テレビが登場して、たしかに映画は市場を奪われた。しかし、映画がなくなったわけではない。映画が登場した時に、演劇も同様の危機感を持ったはずだ。ご存じのように、演劇もいまだ健在である。いや、むしろ演劇や映画のような劇場に足を運んで観客が共同で体感する表現の価値が見直されてもいる。音楽業界でCDが売れなくなって、ライブやフェスの価値が高まったように。こんな逆境がなんとも面白い。
 人生の時間は限られている。人間とは本来、タイパの悪いものだ。長く生きてもたかだか100年ぽっちである。そう思えば、無駄とか不要なものなどない。いや、コスパの悪い豊で贅沢な時間の使い方として、我々はエンターテインメントを創造したのだろう。人生に限りがあるゆえに、映画やドラマは永遠に不滅なのだ。


会員専用の交流サイトスタート!

デジタル編集委員会 委員長
木田 幸紀

6月1日(予定)からプロデューサー協会会員専用の交流サイトがスタートします。
 このサイトは、インターネットを活用して会員同士の交流を促進させ、情報交換を円滑にして、お互いのプロデューサー技量に磨きをかけていくために設けられました。自分の周りからだけでは得られない知恵や工夫を手に入れて、明日からの制作に生かしていただきたいと思います。
 このサイトにログインすると、協会からのお知らせや今後の予定を確認できるだけでなく、会員同士で作品の感想を話し合ったり、制作上の苦心やエピソードを交換しあったりすることができます。
 また特集企画として、旬のプロデューサーや脚本家、俳優、企業家などにインタビューすることも考えています。
 さらにログインした会員同士でメッセージのやり取りも自由にできます。
 プロデューサー協会の会員は誰でも利用できます。(協会を退会した場合は利用できなくなります)
 ログインするには、会員が利用希望を事務局にメール申請すると、事務局から招待メールが届きます。指示に従って自分のメールアドレスとパスワードを登録するとアカウントが作成され、それを使ってパソコンやスマホからいつでもログインできます。
 このサイトでは、投稿は自由にできるのですが、ニックネームや省略名での利用はできず、実名でやり取りしてもらうことにしています。その際、当然ながら他人の誹謗中傷や差別的な表現はNGです。
 またYouTubeの限定公開を使って動画の投稿もできます。脚本家や俳優などの著作権を侵害しないよう注意して投稿してください。
 利用規約がありますので、それに則って利用していただきます。
 会員が自由に利用するのが原則ですが、会員管理や内容の編集、会員のサポート、システムのメンテナンスなどのために、3月末に新しくデジタル編集委員会が発足しました。各社から委員を出してもらい、現在13名で構成しています。このサイトの運営だけでなく、協会の公式ホームページの編集や、今後の協会業務のデジタル化を話し合っていく予定です。
 このサイトを有意義なものにできるかどうかは、利用する会員の皆さんにかかっています。
今は白紙のキャンバスですが、会員同士さまざまなアイデアを出し合って、面白くてタメになるサイトに育てていきましょう。
 会員の皆さんの理解と活用を、よろしくお願いします。
 なお事務局のメールアドレスはinfo@producer.or.jp です。6月1日から受付を開始する予定です。


只今撮影中

NHKメディア総局第3制作センター
松川 博敬

連続テレビ小説「らんまん」

会報委員の皆さま! ご無沙汰しております。昨年までの約4年間、この会報誌の委員長を務めさせていただいておりましたNHKの松川です。その節は各社プロデューサーの皆さまに原稿執筆依頼の件で大変お世話になりました。今春の朝ドラを担当するにあたり、委員長をテレビ東京の木下さんに引き継いでいただき早1年となりました。
さて4月から放送が始まった「らんまん」ですが、この誌面が皆さんのお手元に届く頃には前半戦が大詰めに入り、折り返し地点の少し手前あたりでしょうか? 今作「らんまん」はこの3年、コロナ禍で乱れてしまっていた朝ドラの放送スケジュールがやっと正常化して、本来の全26週(全130回)の完全フルバージョンでお送りする久しぶりの朝ドラになります。クランクインは昨年の9月。放送がスタートする半年後にはきっとコロナ禍が明けているに違いないと、希望の光を胸に撮影を進めてきました。
今作のモデルになっているのが「日本植物学の父」といわれる牧野富太郎さん。周りの目を気にせず一途に情熱的に突き進み、幾多の新種を発見・命名した破天荒な植物学者です。主人公の槙野万太郎を演じるのは神木隆之介さん。彼は見ているだけでワクワク楽しい気持ちになる、まさに太陽のような人です。植物学者の物語を神木さん主演で紡いでいく、花が咲き誇る“春らんまん”と人生を“天真らんまん”に突き進んでいく主人公のイメージが浮かび、タイトルは『らんまん』となりました。春からおめでたいタイトルですごく気に入っています。
 花ばかりではなく人も大いに咲き誇ります。万太郎が生まれ育った高知は、坂本龍馬を筆頭に、常識にとらわれず我が道をゆく格好いい偉人を生み出した土地。いろんな人との出会いによって影響を受けながら成長し、好きな道で世界を切り拓いてゆく万太郎は、まさに「学者版・坂本龍馬」といったイメージ。妻となる寿恵子さんも負けないくらい魅力的なキャラクターです。脚本の長田育恵さんが、ただ夫を支える妻にはしたくないと、万太郎と一緒に冒険していくヒロイン像を作り、その役を、芯の強さを感じさせる浜辺美波さんが明るく演じてくれています。
長田さんの書く脚本は骨太でダイナミック。毎週、濃密な物語を書き上げていて、朝ドラの枠をはみ出した壮大な作品になっています。キャストやスタッフもその熱量を感じているのでしょう。全員がいつも全力投球で、この物語をとても大切に育ててくれていると感じます。その思いが視聴者の皆さんに届いて、毎日朝が来るのを楽しみにしてもらえるようなドラマになればいいなと願っています。


私の新人時代

テレビ東京
中島 叶

ザ・たっちのお二人が一般のご家庭にお邪魔して子供たちとゲームを楽しむ番組のADを担当していたあるロケの日、収録で使用するゲーム機を会社に忘れました。この業界に入って最初にして最大の失敗です。ロケ地はたしか幕張の方で、絶望したのを覚えてます。たまたま会社にいた先輩ADが幕張までゲーム機を運んでくださり、2時間遅れで収録が開始されました。「思いっきり叱ってほしい」という私の思いとは裏腹にプロデューサーもディレクターも新人の私を叱ってくれず、逆に恐怖を感じながら収録はなんとか終わりました。失敗は成功の母…なんて美しい言葉では形容できないお恥ずかしい失敗談ですが、あれ以来「忘れもの恐怖症」になれたことは良かったのかもしれません。
2015年に株式会社ホリプロに入社致しました。先述したバラエティ番組のADを1年経験したのち念願のドラマ制作の部署へ異動。入社3年目にAPとしてNHK BS時代劇『赤ひげ』を担当しました。原作は言わずと知れた山本周五郎の傑作譚で、黒澤明監督の不朽の名作でもあります。これを主演・船越英一郎で連続ドラマ化するというのですから、胸が弾みました。
シーズン1の時から船越さんは毎日のように『「赤ひげ」は自分のライフワークにしたいんだ』とおっしゃっていました。日々の努力や研鑽を重ねることは大前提ですが、その上で目標や願いを口にすることが大切なんだと船越さんのお姿から学びました。気が付けば「赤ひげ」はシーズン4まで続く人気作となりました。私はホリプロを退職する日に船越さんの元を訪れ『テレ東でいつか船越さんとお仕事をさせてください!』と恐れ多くも口に出してお伝えしたのは、船越さんのお姿に影響を受けたからかもしれません。
なんとその半年後、船越さんご出演のドラマを担当することになりました。現場にご到着されたところに駆けつけると『これは中島の企画ではないから、ノーカウント』と、御大はおっしゃていました。


事務局だより

◎正会員入会

坂上 明和(㈱夢プロジェクト)

◎退会

遠田 孝一(㈱メディアミックスジャパン)


2024年度映画手帳に関する大切なご報告

日本映画撮影監督協会様より、昨今の個人情報取扱い状況を鑑みても毎年配布する映画手帳の継続を如何されますか、との問い合わせがあり当協会内でも何度か活発な話し合いがされました。
 その結果、日本映画撮影監督協会様と同様、2024年度より映画手帳を廃止とすることが当協会理事会にて承認されましたので、ここにご報告申し上げます。


インフォメーション

◎会議の記録

  • 4月24日(月) 18時~   デジタル編集委員会(リモート)
  • 5月17日(水) 17時~   会報委員会(リモート)
  • 5月19日(金) 17時~   監事会(事務局・応接会議室)
  • 5月24日(水) 18時30分~ 第47期第8回定例理事会(東映本社8階会議室)

◎会合・会議の予定

  • 6月 6日(火) 18時~   デジタル編集委員会(リモート)
  • 6月27日(火) 17時~   第47期第9回定例理事会(東映本社8階会議室)
  • 6月27日(火) 17時30分~ 第47期通常会員総会(東映本社8階会議室)
  • 7月 4日(火) 18時~   デジタル編集委員会(リモート)
  • 7月25日(火) 17時~   会報委員会(リモート)

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