会報

2024.10.25

会報

No.518 2024年 10月号

時代に媚びず、静かにオーソドックスを追求する

マンガ家・ミュージシャン 久住 昌之
久住 昌之

ドラマ「孤独のグルメ」(テレビ東京)シリーズ開始から12年。10月からは特別編「それぞれの孤独のグルメ」の放送が開始、さらに25年1月10日には劇場版「孤独のグルメ」の公開が控え、進化を続けている―長きにわたり愛され続ける作品の秘訣を原作者の久住昌之先生に聞く

12年という年月はとても長い。当然、制作スタッフが変わっていくことは抗えないこと。ドラマ化の立ち上げから現場に残っているのは僕と主演の松重豊さんと技術の赤松さんくらいしかいないし、プロデューサーやディレクターが若い人になっていくことで、僕と年齢も離れていく。視聴者は“同じもの”を求めていて「何も変えないでほしい」という声もすごくわかる。でも新しいスタッフである以上、新しいことにチャレンジして、変えざるを得ない部分がある。そういう点では主演俳優が歳をとっていく「寅さん」と同じ現象が起きているなと思っている。ただ、寅さんは監督と脚本が最後まで山田洋次ほぼ一人というのが大きかった。 「孤独のグルメ」では、最初から携わっていた監督が亡くなったことと企画を立ち上げたプロデューサーが現場を離れることになったことは、とても大きな変化だった。けれど、松重豊さんが演じてくれて、僕が井之頭五郎のモノローグを考えている限りはそのセンスは変わらないと思っている。

長期シリーズの難しさに悩んだ日々―
見つけた“原点”

五郎の頭の中は22歳でデビューした時からいわばワンパターンで、一人で食べる男の心の葛藤と滑稽が基本。そのセンスは全く変わらない。それでも苦しんだ時期はある。
孤独のグルメを最初に書いたのは30年近く前。そこから10数年経って、ドラマ化に伴い漫画の続編を書くことになった時はすごく悩み苦しんだ。時代的にもスマホが現れ、ネット検索が当たり前になった。最初に書いたときは無かったですから。続編では、主人公の五郎を年取らせるべきか、どう描くべきか、1か月以上悩んだ。僕自身、原稿用紙に書いてた30代後半から、ワープロで書く50代になってましたから。考えも戻れない。
そんな時、肋骨を折って入院する事になってしまった。退屈で不自由な身体で犬のように病院食を待ってる時「ああ、これが人が食べる原点だな」って思って。井之頭五郎の病院シーンから始めれば、今の自分のまま、十数年前の井之頭五郎が書けると思った。やっぱり何か「実感」がないと生き生きした主人公とドラマが書けないんだな、と思った。
ドラマでも12年続けていると当然、松重さんも年齢を重ねていく。
よく松重さんが「食べることが出来なくなったら続けられない」と言っているけれど、このドラマは本当に健康でお腹が空くって状態でないと続けられないと思う。
松重さんが年齢を重ねても五郎としてイメージをキープして、演じ続けてくれることで続けられている。これは寅さんを演じる渥美清さんと通ずる凄さでその努力があるから作り続けることが出来ている。

海外でも製作される「孤独のグルメ」
台湾版と日本版のまさかの違い―

「孤独のグルメ」は日本でのドラマ化だけでなく、台湾でも製作が行われた。日本版と台湾版ではドラマ制作の視点や大事にしている部分が違うと感じた。ドラマを作る上では当たり前の話だが、台湾サイドは主人公がどういう人物で普段どんな暮らしで、どう生きてきたかの設定、背景をきっちりしたいようだった。僕は漫画家なので井之頭五郎は「店にたまたま入ってくる見知らぬ独身の個人輸入業者」でよかった。その方が第三者の目線で彼を描けると思ったのだ。ところが台湾版では、五郎はギャングの息子でその道には行かずにフランスに留学して、そこでグルメになったという設定にしたいと打診があった。これには大笑いだったが「台湾だとそうなる、というのも面白いからいいと思います」と答えた。お国柄ということで。

映像化の際に大切にしている
原作漫画の精神―

自分の作品において大切にしているのは時代に媚びすぎないこと、でも流行に対して何か意固地になりすぎないこと。その上で自然に僕が面白いと思う人間の滑稽さを描きたい。
長くやっていると「変えたい」という思いが生まれてくるけれど、急に違うことをやるとすると「違う」という声が必ず出る。SNSでの声は実は一部で多くの人が考えていることと違うことがあるので、そこを気にしてしまうと作品がどこに行ったらいいのか分からなくなってしまう。だからこそ、自分が面白いと思うことを大事にしたい。自分はずっとこのドラマはいつ終わってもいいと思って、12年続いた。長く続けようと欲をかくと、根本の面白さを忘れて、しくじる。あくまで自然体で、五郎の滑稽を描けたらと思う。
映像化にあたって最初から気をつけてるのは、“今っぽい”テレビの手法はやめようということ。“今っぽさ”、つまり流行はすぐに古臭くなる。スタッフには、ドラマとしてオーソドックスに作って欲しいと言っている。あまり奇をてらわないから、これだけ再放送されても見るに耐えうるのではないか。

視聴者に伝わる“嘘のなさ”とギャップの面白さ―
「おいしいー!」って大げさに表現するのは簡単だけど、僕は食レポは「テレビ芸」だと思っていて、ドラマである「孤独のグルメ」では極力避けたい。一人でご飯を食べている人が誰の目線も感じずに楽しんでいるリアルさは絶対に外さないようにしたい。
視聴者には松重さんが本当にお腹を空かして食べているのが伝わるからこそ、おいしそうに見える。だけど、五郎はその時、頭の中で変なことを言う。そのギャップで、作品が立体的になっていく。僕は「孤独のグルメ」はタイトルにグルメと入っているけど、グルメドラマと思っていない。おいしそうで面白いドラマというだけでいい。グルメにこだわるとつい食レポになる。そういう「グルメドラマ」が今多い。
デビュー作『かっこいいスキヤキ』からずっと、見た目が怖い人が実は弁当のおかずを食べる順番悩んでいる…というようなギャップと、一人の人間の普遍的な滑稽さを描いてきた。それをあえて「ギャグ漫画」と考えたことはないんです。
僕自身もスタッフも大事にしているのは、登場するお店に何度も足を運んで食べること、観察すること。そしたらお店へのリスペクトは自然に生まれる。漫画では谷口ジローさんの絵がそれを伝えてくれて、ドラマでは映像でそれを伝えることを大切にしている。
料理のおいしさは、お店の人や、お店の空気、そこにくる客、その店がある街と、すべて繋がっている。味だけで終わるのは食レポ。だから、「孤独のグルメ」は時間がかかるんです。
谷口ジローさんは「孤独のグルメ」一話8ページの漫画を一週間かけて描いた。1コマ1日も当たり前。だけど、だからこそ漫画「孤独のグルメ」は30年近く読まれて、10か国以上で翻訳出版されて今も売れ続けている。映像化でも谷口ジローさんの精神を忘れずに【はしゃがない】【丁寧に】【手を抜かない】というのを守ってきているからこそ12年も続くドラマになっていると思う。そこは原作者として、松重さんとスタッフに感謝している。



事業活動についてのお知らせ

アクターズセミナー委員会

10月4日(金) 昨年に引き続き、東京ミッドタウン日比谷にて、中田秀夫監督を講師にお招きし、40名の若手俳優を選出しアクターズセミナーを実施します。奥田会長を審査委員長とし、各社審査員による審査。映画産業振興機構(VIPO)「ndjc若手映像作家育成プロジェクト」の若手監督ならび各社担当プロデューサーが参加してのセミナーとなります。次号会報にてセミナーの様子や結果報告など致しますのでご期待ください。

プロデューサーズ・カフェ委員会

昨年は「配信ドラマ制作について」をテーマに準備を整えておりましたが、諸般の事情により止む無く中止となりました。 今年のテーマは未定ではございますが、委員の皆様と一緒に新しいテーマを探り、開催したいと考えております。開催時期が決まりましたら会員サイトなどでもお知らせいたしますので、是非ともご参加ください。宜しくお願い致します。

ドラマフェスティバルについて

前号でお知らせしました、東京ドラマアウォード授賞式は10月28日(月)17:00~東京プリンスホテルにて行われます。2007年の開始以来、国内外の注目度は飛躍的に高まっています。当協会の会員の皆様にも投票などでも格段のご協力を頂いております。司会者も一新する今年の「東京ドラマアウォード」にどうぞご注目ください。

デジタル編集委員会

昨昨年6月から立ち上がった会員専用の交流サイトですが、少しずつ登録者数も増えており、今後は、より会員同士のコミュニケーションが活発化するようなサイトに育てていきたいと考えております。
このサイトは会員の皆さまの参加によって成り立つサイトですので、この機会に、ぜひ多くの方々のご登録をお願いいたします。サイト利用希望の旨を事務局(info@producer.or.jp)にメールで申請しますと、事務局から招待メールが届きますので、記載に従って登録することで手続きは完了です。
プロデューサー同士が気軽に繋がり、活用してみよう! と思えるサイトに出来れば思います。



只今撮影中

ドラマ「Qrosの女」

松竹株式会社映像企画部 テレビ企画室
松田 裕佑
松田 裕佑

近年稀にみる超低速台風とともに8月下旬にクランクイン。連日のように総スケ・てっぱり・天気予報を並べてチーフ助監督と打ち合わせをしながら現在も撮影中の本作。原作は2013年に連載・発刊された誉田哲也さんの「Qrosの女」。
情報があふれる昨今では、「テレビよりもネットの情報が早い」というのは当たり前ですが、「ここにしかない情報」という付加価値をつけて、売り上げを伸ばし続けている週刊キンダイを舞台に、テレビ東京の連ドラ初主演となる桐谷健太さんが「世の中が求めるネタを提供しているだけだ」と言いながらあらゆる芸能人の“真実”を暴き、大衆の欲を満たしていく芸能記者・栗山を演じています。そんな彼も過去に犯した間違いによって大きな十字架を背負っていますが、ある謎の女性「Qrosの女」との出会いをキッカケに、思いもよらぬ事件に巻き込まれていきます……他にも栗山とバディを組む新米芸能記者・矢口役に影山拓也さん(IMP.)、週刊キンダイ編集長・林田役を岡部たかしさん、全身黒ずくめのブラックジャーナリスト・園田役に哀川翔さんなど、豪華キャスト陣とともに今までにないゴシップエンターテインメントを制作しております。
さて本作は初めて自分の企画として通った作品で、良い意味でも悪い意味でも絶対に忘れられない作品になることは間違いありません。8年前にこの原作を見つけた自分にとっては映像化されることは非常に嬉しく、感慨深いものです。逆にドラマをゼロから生み出すことの難しさ、その上で自分に欠けているものを痛感するといった、これからのプロデューサー人生にとって必要な経験ができていると思います。先日、第1話のオールラッシュを観て、間違いなく面白い作品になっているなと自信を持つことができました。
“本当に怖いのは人間の欲望だ”。本作で描かれるゴシップは、誰もが見覚えのあるものかもしれません。そして、話題のCM美女「Qrosの女」を巡って大衆の欲望が加速していく中、栗山は記者の存在意義、プライド、情熱と向き合い直すことになっていきます。真実を暴くことが果たして善なのか――。栗山が出す決断とは!?
ゴシップエンターテインメント「Qrosの女」にぜひご期待ください!

Qrosの女


私の新人時代

テレビ東京 配信ビジネス局 ドラマ室
木下 真梨子
木下 真梨子

新卒採用の面接官をすることがあり、就活生のしっかりとした受け答えに感心することがある。それと同時に学生時代にきちんと就活していたら、私は今何をしていたのだろうと思うことがある。学生時代、映画やドラマの音効になりたいと4年間、録音技術を学んでいた。それが紆余曲折を経て、今はドラマのプロデューサーをしている。
そのきっかけは就活シーズンに「何を仕事にしたいか」を見失い、就職先を決めずに卒業を迎えてしまったこと。なんとも無謀で過去の自分に説教したい。そんな私の相談に乗ってくれた大学の教授は「プロデューサーや制作に向いていると思う」と言う。教授がなぜそう言ったかは今も分からないが、その一言に縋るように制作会社に入り、私の『新人時代』が始まった。配属されたのは日本テレビ『ズームイン!!SUPER』。朝5時過ぎからの生放送。最初の1か月は昼夜逆転の生活に慣れるのに苦戦し、立ったままウトウトすることもあった。生放送に間に合わせるために取材テープを持ってスタジオへ走る日々。ドラマや映画の世界への憧れ自体は失っていなかった私は「長く続けられないかも」と思っていた。けれど、初見の原稿をその場で淀みなく読むアナウンサー、1秒単位で時間を管理するタイムキーパー、テロップを即座に打つテロッパーや的確なタイミングで映像を出すVE、世の中の人にほとんど知られていない役割を担う凄腕スタッフが2時間超の生放送を作り上げている。学生時代の実習とは比べ物にならない数のスタッフ全員が自分の役割に責任を持つプロ。自分がその一部になれたことが嬉しかったし、作品作りを裏から支えるスタッフになりたかったんだと思った。結局、私は生放送の番組を6年近く続け、バラエティ番組のAPも経験した。20代後半になった時、テレビ東京のドラマ室に最初は派遣APとして採用してもらった。それから約10年。大学の教授が私に「プロデューサーに向いている」といった本心は分からないけれど、その言葉を支えに今もテレビドラマを作る私がいる。



事務局だより

◎正会員入会

田中 瑞人(フリープロデュサー〈NHK〉)
田中 瑞人

石村 将太(日本放送協会)
石村 将太

石澤 かおる(日本放送協会)
石澤 かおる

西村 武五郎(日本放送協会)
 西村 武五郎


◎退会

石塚 正悟(㈱ギークサイト)
柳内 久仁子(日テレAX‐ON)


お詫びと訂正
9月号にて新入会 日本映画放送㈱の三品貴志様の表記が間違っていました。
(誤)三品貴士 ➡(正)三品貴志
お詫びして訂正いたします。


インフォメーション

 ◎会合・会議の記録

9月3日(火) 15時00分~ 第1回アクターズセミナー会場打合せ(リモート)

9月17日(火) 15時00分~ 第1回アクターズセミナー委員会(リモート)

9月18日(水) 18時30分~ 第2回定例理事会会報委員会(東映本社8階会議室)

9月24日(火) 17時00分~ 第3回会報委員会(リモート)

9月25日(水) 11時00分~ 第2回アクターズセミナー会場打合せ(日比谷三井カンファレンス)

 ◎会合・会議の予定

10月1日(火) 時間未定  第1回デジタル編集委員会(リモート)

10月4日(金) 10時00分~ アクターズセミナー(日比谷三井カンファレンス)

10月16日(水) 14時00分~ 会計監事打合せ(プロデュサー協会事務局)

10月21日(月) 18時30分~ 第3回定例理事会(東映本社8階会議室)

10月28日(月) 東京ドラマアウォード授賞式(東京プリンスホテル)


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